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2010-12-25

『SRサイタマノラッパー』は、現実感のない御伽噺

 『SRサイタマノラッパー』を観た。
 金沢市では、首都圏での上映から1年以上遅れ、『SRサイタマノラッパー2女子ラッパー傷だらけのライム』の上映に合わせての上映だ。従って、評判が物凄く高いことを知った上で観ることになり、評価のハードルは自然と高くなった。で、それでも感動した。評判の高さも納得だ。でもねぇ……

 物語は単純。うだつの上がらないラッパーの、ヒップホップに人生を懸けている姿を描く。
 はっきりいって、物語は面白くない。というか、あってないようなもの。だのに作品が面白いのは、キャラクター造形が良いから。そこにしか『SRサイタマノラッパー』の魅力はなく、そこに魅力を感じなければ、全く面白くない。
 どの登場人物にも輝ける未来は待ってなく、作品全体に閉塞感が漂っている。主人公は、大した学歴がなく、働きもせず、ホームセンターのような店で雑誌を買い、誰も認めていないのに「俺はラッパーなんだよ」と自称しているだけの、ただのニート。ライムのネタを集めるために新聞をいちいち読んでいるくせに内容は理解していない、それを自慢しているような、ただの馬鹿。それでも主人公は、ヒップホップにしがみ付く。人生を照らす灯りがそれしかないかように。
 愛すべき駄目人間の物語――そんな作品はたくさん存在する。その代表格が、ポール・トーマス・アンダーソン監督の『ブギー・ナイツ』だ(私が勝手に親友認定している作品)。ビーチ・ボーイズの「神のみぞ知る」が流れる最後の場面なんて、何度観ても泣いてしまう。色んなものを失った最後の最後に主人公がしがみ付くのは結局、ご自慢の大きなペニスだけだった。
 しかし、『SRサイタマノラッパー』はそれら「愛すべき駄目人間の物語」とは異なる。『SRサイタマノラッパー』の登場人物には、「愛すべき駄目人間」が登場しない。愛嬌がない。何が『ブギー・ナイツ』――「愛すべき駄目人間の物語」――と異なるのだろう?

 残念なのは、最初から最後まで、物語にノれないことだ。主人公たちの駄目っぷりにはとっても共感できるけど、なぜそんな駄目人間がヒップホップでなければならないのか、その点が全く描かれていない。だから、人生にヒップホップは必要不可欠であることを訴える最後の場面は、観ている最中は感動的なのに、観終わると何も残らない。
 みひろさんら脇役により、主人公らが駄目人間である過去がそれとなく描かれているが、肝心要のヒップホップに打ち込む真剣さが全く描かれていない。「だから、それで?」としか思えない。結局、『描かない漫画家』のようなものだ(いや、それ以下か)。
 北野武監督の『キッズ・リターン』の最後場面のように、「まだ始まっていない」わけでもない。だって、何もしていないもの。何もないのなら、それこそ石原まこちんさんの『THE3名様』のような物語でも良かった筈だ。しかし『SRサイタマノラッパー』は、痛烈で感動的な物語を目指している。成功しているのは、「痛烈」な部分だけ。
 『8Mile』と比較されるだろうけど、『SRサイタマノラッパー』は、『8Mile』には敵わない。金がかかっていない、有名人が出ていないという差じゃない。根本的な問題。なぜ主人公はヒップホップでなければならないのか、それが全くわからないのが大問題。
 『BECK』も同様だったけど、物語としては別にロックでなくても構わない。「アイドルになりたい」でも「芸人になりたい」でもいいわけだ。『SRサイタマノラッパー』だって同じ。主人公はデブなんだし、「相撲取りになりたいのになれないニート」でもいい。むしろそっちの方がいい。必然性があるし。『プレシャス』なんて必然性のあるキャスティングだったよ。
 必然性が描かれないから、「痛烈」であっても、「愛嬌」はない。それで大失敗している。

 物語が面白くないのに作品が面白いとなると、それは殆どドキュメンタリーのようなものだ。実際、近い演出が2点ある。役所での曲披露と最後の居酒屋での本音の吐露、その2点はワンカットの長回しで、『SRサイタマノラッパー』の胆で、演出的にも最も力が入っている。全体的に突き放して撮っている部分が多いので、そこもドキュメンタリーっぽいといえる。が、それも中途半端。
 ドキュメンタリーなら対象にもっと近寄らないと駄目なのに、近寄らない。いや、むしろ周囲を徹底的に描くことで主人公を浮かび上がらせるべきなのに、それもしない。最も駄目なのは、周囲に気を配っていないことだ。
 長回しの2場面は、物語的に重要な、最も「痛烈」な場面だ。周囲が白けた雰囲気の中で、主人公だけが熱く披露する曲。あ痛たたたたぁ~、となる場面。しかし、周囲の演出に気を配っていないから、妙に現実味がない。役所で披露する場面は、曲の途中で「あ、もうそこまででいいです」と打ち切られるべきだった。最後の居酒屋の場面にしたって、普通なら店長が途中で止めるだろ。そんな当たり前のことをやらない脚本だから、はっきりって「痛烈」には届いていない。何かテキトー。

 パッと見、とっても面白くて感動的なんだけど、実は格好だけで魂が欠けている。最後の場面には感動してボロ泣きしてしまったけど……現実感のなさが――それこそティム・バートン監督の『シザーハンズ』よりも現実感がない――何もかもを駄目にしている。
 とっても真摯に作られていると思えるだけに、もったいないと思える作品だ。まあ、それでも『BECK』なんかよりゃ全然マシだけどね、と言い切れないけど。
 何となく観ていれば感動するけど、細かい部分が気になりだすと一気にボロが溢れてくるので、賞味期限は当日中まで。
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テーマ : 映画館で観た映画
ジャンル : 映画

tag : サイタマノラッパー

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プロフィール

ばっどていすとさんどいっち

Author:ばっどていすとさんどいっち
テクノ好き。
アンダーワールドのRez大好き。
映画大好き。
ジャッキー・チェンが生涯の英雄。
生涯1位作品は『ミミズバーガー』。
2位が『溶解人間』。
泣き虫で、馬鹿。
itsuka-omoi-dasu-bts@hotmail.co.jp

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