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2009-12-03

『風が強く吹いている』は、扇風機の強風レベル

 『風が強く吹いている』を観た。三浦しをんさんによる小説の映画化だ。様々なメディア展開をするくらい人気のある作品。三浦さんの作品はエッセイは大好きで読んでいるけど、小説は読んだことがなかったので、映画ならさっさーと楽しめるから丁度良いと思って観た。

 物語は単純。「素人集団がある何かに挑戦し、素晴らしい結果を出す」という古今東西にありふれすぎている典型的かつ王道の「ジャンルもの」。『風が強く吹いている』に於ける「ある何か」は駅伝だ。まともに走ったこともない素人集団が、駅伝に出て頂点を目指す。さすがに全員が素人だと無理あるから、孤高の天才ランナーと足の故障から復帰した秀才ランナーという2人の経験者を牽引役として登場させている。
 素人の面々は、最初はあまり乗り気でなかったけど、徐々に走る意義を見出し、真剣に、ひたむきに走りに立ち向かう。孤高の天才は、孤高の天才ゆえに仲間になろうとしなかったけど、徐々に仲間の大切さを知り、今まで以上に走ることが好きになる。秀才ランナーは、故障を抱えているゆえに、最初から誰よりも真剣でひたむきで優しく、熱く、そして仲間ができたことにより、命をかけた走りをする。『風が強く吹いている』は、駅伝の物語であると同時に、この手の作品の定石通り、仲間の物語だ。
 最初はバラバラだった仲間が1つにまとまって行く過程は感動的だ。素人集団は当然のように単なる素人なわけがなく、個性豊か。漫画の山に埋もれて遭難しそうなくらいの漫画オタク、お父さんが犬な走るのが苦手な黒人留学生、ニコチン中毒の留年生、クイズ王、入れ替わって他人をからかうのが大好きな双子など多彩かつ濃い設定の者ばかり。そんな面々が同じ寮で暮らしているのだから、それだけでも面白い物語が作れそうなのに、駅伝のために一致団結するのだから面白くないわけがない。また、個性が強い割りに全員が素直で性格が良いから、脱線することなく、まっすぐに気持ち良くまとまって行く。中でも小出恵介さん演じる主人公・ハイジは、全員をまとめるリーダーとしての役割ゆえに、大好感を抱けるキャラクターになっており、「私にもあんな親友が欲しい!」と思わされるくらい曇りなき素晴らしさ。そして、林遣都さん演じる天才ランナー・カケルの綺麗な走りっぷりが現実感なき物語に現実感を与えている(林さんはスポーツものによく出るなぁ)。
 古今東西、似たような物語はたくさんあれど、『風が強く吹いている』程に最初から最後まで清々しいものはないだろう。しかし、そんなに感動的な要素が揃っているのに、とっても面白くないのだ。

 物凄い傑作要素がたっぷり揃っているのに、何もかもが中途半端。描写が全くなく、説明しかないのが原因。
 個性豊かな面々を揃えているくせに、その個性が光る瞬間が全くない。設定が全く活かされてない。漫画オタクとクイズ王なんて、ただ単に「漫画オタク」と「クイズ王」であるだけ。超インドア派が駅伝に出ると面白いよね、という設定のみ。ニコチン中毒だって、陸上選手になろうというのならそれは物凄いマイナス要素になっているから、中毒からの脱却と苦労は描かれるべきなのに、そうでなきゃ感動なんて起こるわけがないのに、全く描かれず、あっさりと中毒から抜けている(抜けた描写すらない)。あだ名の「ニコちゃん先輩」が成立しないじゃん。双子も、双子である意味が全くない。司法試験に現役合格したというだけの平凡なキャラもいて、それは「だから?」て感じ。
 何で主人公がそんな面々に「このメンバーでなら勝てる」と確固たる自信を抱いていたのか、納得できる描写が全くない。台詞で「彼らとならできる」と説明するだけ。いや、普通、あんな面々だと「これじゃ無理」と思うでしょ。潜在能力があるとしてもちっとも描写されないんだもん。
 「故障から復帰した」主人公自身、何でそこまで執念を抱くのか描かれない。実は主人公の故障は治ってないんだけど、それも「治っていない」と説明があるだけ。天才ランナーが弱小陸上部に入っているのも、高校時代に暴力沙汰を起こしたからで、そんなありふれすぎている設定に今時盛り上がれるわけがないんだけど、暴力沙汰を起こした理由やその後の描写がなく、説明があるだけ。十人揃っても奇跡が起きるメンバーには絶対に見えない。
 脇役も同様に描写がない。天才ランナーにはライバルがいるんだけど、ライバルであることがわかる台詞があるだけ。主人公らにはちゃんと監督がいるんだけど、何の役にも立たず、ただ「昔は凄いランナーだった」と台詞があるだけ。みんなが住んでいるボロっちい寮も、今にも床や天井が崩れそうなオモシロ設定なのに、活かされることはない。
 キャラクターの心情もちゃんと描かれない。十人全員を説明して、それぞれの見せ場を作るんだから、2時間くらいでは描き切れるものではない。2部作に分けるくらいでないと。キャラクターが悩むことなく真っすぐ突き進む物語なんだから、展開には手間取らないのに、何もかもが台詞で説明される。または省かれる。描写だけで強引に納得させるのが得意な宮崎駿監督とは真逆だ。
 監督の技量の高低よりは、脚本が物凄く悪い。最も顕著な例は、走る場面でヒロインに(このヒロインがこれまた存在感皆無)、「走る姿が綺麗」とか、「走って終わりじゃないんだ」とか、「仲間って素晴らしい」とか、いちいち描写を台詞で説明させている。台詞でなく、描写だけで観客に伝えなさいよ。最後に、「強い風が吹いています」という台詞があって、本当にびゅおーって風が吹くんだけど、いらんだろあの演出。笑っちゃったよ。台詞をなくすか、風を吹かさないか、どちらかだけでいいでしょ。原作を活かそうとしているんだろうけど、完全に大失敗している。

 物語自体が「素人集団が1年ちょっとで駅伝に出る」という荒唐無稽なものなのに、それを支えるだけの説得力が全くない。黒澤明監督の『七人の侍』のような説得力が全くない。出来の悪いライトノベルのようだ。「ほら、こーゆー設定ってありふれているから、説明しなくても何となくわかるでしょ?」と客に任せている感じ。だから展開だって客の想像を超えない。当然のように故障を抱えた主人公は最後に故障が再発する。しかしその痛みに耐えてゴールし、「仲間って素晴らしい!」という感動を演出する。で、なぜかちゃんと勝つ。おいおい、怪我のせいで走る速度が物凄く落ちたってのに、「2秒差で勝った」なんて都合良すぎるだろ。そこまで余裕で勝ててた描写がこれまた全くない。とにかく、「説明しなくてもわかるでしょ?」な映画なのだ。手抜きというよりは、出来がとっても悪い。
 また、結末から数ヵ月後なのか数年後なのかわからないエピローグも意味不明。「ゴールしてみんなで大喜び→カケルが夕日を背景に走っている遠景ショット」で終わらせておけばスッキリと綺麗でいいのにねぇ。
 何よりも、走る楽しさが最後まで全く描かれてないのは問題ありだろ。本当、こっちが知りたいよ、何でみんな走ってんのか。
 走っている場面はなかなか良かったのに(殆どカケル頼りなんだけど)、他があまりにもファンタジーっぽすぎて(光の演出が特に)、何もかもが台無し。原作の設定が逆に足を引っ張る結果となっているので、映画化しなければ良かったのに。原作は小説だからたぶん面白いだろうし、もうちょっと工夫してほしかった。もったいないなぁ。
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テーマ : 映画館で観た映画
ジャンル : 映画

tag : 風が強く吹いている

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プロフィール

ばっどていすとさんどいっち

Author:ばっどていすとさんどいっち
テクノ好き。
アンダーワールドのRez大好き。
映画大好き。
ジャッキー・チェンが生涯の英雄。
生涯1位作品は『ミミズバーガー』。
2位が『溶解人間』。
泣き虫で、馬鹿。
itsuka-omoi-dasu-bts@hotmail.co.jp

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