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2009-09-29

天国に行けない貧者

 カナザワ映画祭も遂に終わる。最終日である7日目は、『ラザロ』を観た。最終日の上映は、『ラザロ』のみ。
 『ラザロ』は、クロージング作品ということもあり、今回の映画祭では最終日のシネモンドでしか観られない映画でもあり、金沢市での初上映でもあり、かつ最後の上映でもあろうから、さぞかしたっくさん観客が来ているだろうな、と予想していたら……ガラガラだった(上映30分前の時点で)。上映待ちの人、私以外に誰もいない。あれぇ? 結果的には観客席の半分以上は埋まったけど、想像以下なのは変わらん。行列ができると思っていたのに……

 『ラザロ』は、第一印象はかなり期待外れだった。どんな内容なのかよく知らないで観たんだけど、前評判が物凄く高かったので、期待値が上がるに上がっていた。ところが、画面を観た瞬間、一気に下がった。学生映画祭向けに作られた、スタッフも学生ばかりの自主制作映画だったようで、画質や演技が安っぽい。しかし、どれだけ安っぽくても、センスの良さってのはちゃんと表れるようで、惹きつけられる部分もたくさんあった。
 構成が3部になっており、東美伽さん演じるマユミを共通の主人公とし、物語や演出や展開はそれぞれ異なっている。

 第1部「蒼ざめたる馬」は、金儲けのために裕福な男を誘惑しては殺す話だ。マユミを中心とした3人グループで活動しているんだけど、そのうちの1人が殺すべき男を好きになってしまい、計画が頓挫してしまう。男は殺されず、助かる。同時に、3人グループは瓦解する。マユミが仲間に対して、「この先幸せな生活を送れたとしても、常に私の亡霊が付きまとうぞ」という脅しが完全に怪談を彷彿とさせる。
 正直、安っぽさが絶好調で、「これが3時間以上続くのか?」と始まった瞬間に困ってしまった。会話に無駄がありすぎるし、役者の演技が本当に学生映画って感じだし、そもそも物語が弱すぎる。何で金儲けのために殺人を犯さなきゃならんのだ。「金持ちはもっと金持ちに、貧乏人はもっと貧乏になる。それがこの世の法則」みたいなこというけど、それをハイリスク・ローリターンな殺人を犯す根拠にはできんだろ。それだとマユミが物凄い馬鹿にしか思えないんだけど。
 ただ、所々で「おおっ」と驚きの素晴らしいショットがある。マユミの表情を映すショットは皆素晴らしい。森の中に男を埋めに運ぶ場面も素晴らしい。井土紀州監督は、会話によってサスペンスを盛り上げるよりも、魅せるショットによって盛り上げる方が向いていると思った。脚本が物凄い完成度なら、コーエン兄弟みたいな感じかと。方向性としては、黒沢清監督に似ている(特に森の場面が)。

 第2部「複製の廃墟」は、偽札によって国家転覆を図る話だ。ATMをも騙し通せるような精巧な偽造紙幣を作り、ばら撒き、社会を混乱させる愉快犯が今度のマユミだ。
 えー、これまた安っぽい。演技、物語、台詞、みんなが安っぽい。「蒼ざめたる馬」よりは良くなっているし、またもや見所満載の画面作りではあるんだけど、辛い。今度もマユミには仲間がいるんだけど、物凄くマユミを信奉しているんだけど、それが何でなのかさっぱりわからない。いや、マユミのカリスマ性をちゃんと描ければ、その理由を描く必要は全くないんだけど、やはりマユミは馬鹿っぽいのだ。どうしても魅力的でないんだよな、マユミが。それに、どうやって偽札を作ったのか、何で全くバレないのか、「子供が考えた犯罪映画」って感じで、物語には全くハマれない。
 しかしその反面、画面作りはますます巧くなり、怪談っぽくなっている。そしてますます黒沢清監督っぽくなっている。日傘に顔半分隠れたマユミのショットが特に見事。これで物語が面白ければなぁ……

 うぅ……まだ1時間以上あるのか……と、うんざりしてきたところへ、驚いたのが、第3部「朝日のあたる家」だ。最初の、駅に止まった電車から黒い服を着た女性が降りてくる場面から、驚いた。第1、2部と全っ然違う。いきなり映画っぽくなっている! 第1~3部は同時でなく、順番に撮っているから、徐々に上達していったんだろう。最後に撮った第3部が最も巧いのはそのためだ。その最も巧い第3部は、物語的には最初に当たる。
 第3部は、犯罪者マユミが誕生するまでを描いた話だ。大きなショッピングモールができたせいで商店街が潰れてしまった街が舞台。まだ平凡な会社員にすぎなかったマユミは、両親が営んでいた店――商店街を潰したショッピングモールで役職に就いている男と付き合っていた。マユミは別にそれで構わなかったが、マユミの妹は男を許せず、困らせてやろうとする。その結果、妹は男に殺される。事件の発覚を恐れた男は、マユミも殺し、2人とも海へと沈めてしまう。しかし、マユミは怪物となって復活する。
 これはもう完全にホラー映画だ。物凄い完成度、ではないけれど、かなりの傑作ぶり。第3部だけ「Jホラー」で売っても大丈夫なくらい。マユミを殺した男が海沿いに車を止めて、新聞を読んでいる画面のずーっと奥、車からずーっと離れた場所からマユミが近付いてくるショットは、ちゃんと「Jホラー」の文法に沿った演出だ。その後の展開も。また、シャッター商店街の場面で、シルエットだけで映る、車椅子を押している謎の集団も黒沢清監督っぽい。全く意味ないけどね。
 ただし、やっぱり物語は凄いつまらない。『ツァイトガイスト』を彷彿とさせるネオリベラリズム批判があってゲンナリ。物語だけなら第3部が最も面白くない。演出力だけで傑作の域まで強引に持ち上げている感じだ。
 第3部は、マユミの正体を解き明かす、『リング』シリーズでいうところの『リング0 バースデイ』だ。古今東西、恐怖映画は恐怖の正体を描いたら絶対につまらなくなる、という法則がある。『リング0 バースデイ』は成功例だけど、『ラザロ』は、正直、成功しているとはいい難い。物語の順番は、第3部→第1部→第2部、となっているわけだけど、第3部と第1部でかなり隔たりがある。いくらでも「犯罪者マユミ」でシリーズを作れそうなのに、第3部のせいでそれは駄目になってしまっている。もったいない。

 3部作全体を通して、マユミの造形は巧い。首に巻いたスカーフ、首の赤い痣など、古典的なサスペンスの盛り上げ方をよーくわかってて、それだけで巧い、とは思う。あとは脚本の完成度だけが問題。最も巧いと思った第3部にしても、資本主義批判みたいなことしているけど、ちょぉっと頭悪すぎでしょ。高校生の討論じゃないんだからさ、もうちっとマシな話をさせなさいよ。大店法の是非なんて、会話で何から何まで説明しちゃうなんて、全く必要のない場面だったよ。
 井土監督は、ちゃんとした製作費をかけ、ちゃんとした脚本を作れば、かなり良い映画を作る監督なのではないか、と思った。ただ、第1、2部は根本的に脚本を作り変えなければ、製作費をたくさんかけても駄作にしかならんと思うけど。ただ、最終的な感想は、第1部が最も映画として良かったと思う。最も下手くそなんだけど、画面作りが良かった。何にしろ今後がとても楽しみな監督だ。

 映画祭の最終日を飾る映画が『ラザロ』だったのは、正直、出だしはガッカリしたけど、観終わってみれば納得の映画だった。ゆえに、大人数が観なかったのはもったいないことだと思った。革命や世の中を変えることは、簡単でないのね。
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テーマ : 映画館で観た映画
ジャンル : 映画

tag : カナザワ映画祭

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プロフィール

ばっどていすとさんどいっち

Author:ばっどていすとさんどいっち
テクノ好き。
アンダーワールドのRez大好き。
映画大好き。
ジャッキー・チェンが生涯の英雄。
生涯1位作品は『ミミズバーガー』。
2位が『溶解人間』。
泣き虫で、馬鹿。
itsuka-omoi-dasu-bts@hotmail.co.jp

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