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2009-08-08

『サマーウォーズ』はちょっと黒澤明監督作品っぽい

 細田守監督の新作『サマーウォーズ』を観た。予告編から、絶対に面白くないに決まっている、と思っていたんだけど、予想以上に面白かった。予想以上どころか、遥かに面白く、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』と比較するなら、比べ物にならないくらい面白かった(以下、ネタバレあり)。

 物語は単純なようで、複雑でないけど、簡単でもない。主軸は高校生男女の典型的な「ボーイ・ミーツ・ガール」の話が、「燃える闘魂のおばあちゃん」の話と「ネット世界を巡る戦い」の話に両脇を挟まれ、気付くと主人公が世界の運命を握っている「世界系」へと雪崩れ込み、ハッピーエンドとなる。
 物語の構成がとても巧い。省略が的確だ。ネット世界「OZ」の説明、おばあちゃん・栄の人物説明、脇役の描写と設置のしかた、みんな的確だし、省略が効いていて物語が淀みなく進行する。脚本の出来が良いのだろう。
 たとえば主人公・健二とヒロイン・夏希の関係。後輩と先輩の関係であることは、健二が夏希を「先輩」と呼ぶから瞭然としているけど、それ以外の情報は一切ない。両者の説明は、台詞で行われず、あくまでも状況描写だけで行われる。
 脇役についても同様だ。大人数の親戚が登場するのに、混乱が一切ない。家系図が土台にちゃんとあって、日本的な家族の関係性が淀みなく描かれる。
 物語の全体として重要になる夏希の魅力も的確に描かれている。『サマーウォーズ』の成功は、夏希と栄の魅力にかかっており、特にヒロインである夏希の魅力は重要だ。夏希は、物語中盤まで、大して魅力的でない。健二を初恋のおじさん代わりに田舎へ連れて行き、いざ初恋のおじさんが現れたら健二を放置する。しかし、栄の死去以降、魅力的になる。というか、どの登場人物も栄の死去以降に俄然と輝きだす。つまり、そこまでは「燃える闘魂のおばあちゃん」が中心となって物語を牽引する。栄の死去により、夏希は栄からバトンを渡される。展開の比重の置き方が巧いなぁ、と思う。
 これだけ無駄のないちゃんとした展開を見せる映画は、最近のメジャーな邦画の中では殆どなく、実写を含めてもトップクラスの出来だろう。

 難点はもちろんある。ネット世界「OZ」の描き方の酷さは誰もが指摘する点だろう。
 セカンドライフを物凄くしたような「OZ」は、発想的にちょっと年寄り臭い。だって、あまりにも旧態然としているんだもの。あんなの逆に使い辛いでしょ。役所の情報管理だけならまだしも、交通機関の制御までネットに頼りきりなんて、安全性の問題から絶対に実現しない。ハッキングAI「ラブマシーン」の描写もメチャクチャだ。あれを実現できるコンピュータとプログラムが現れるのは遥か遥か先。
 「ラブマシーン」の描写だけでなく、「キング・カズマ」の描写もメチャクチャだし、後半の花札勝負の場面も描写がメチャクチャだ(まさかあそこで「魔法少女もの」の変身場面が見られるとは思いもしなかった)。ネットでの格闘や花札をめくるのに「うぉおおーっ!」と叫ぶ必要ってないでしょ。実際はキーボードや携帯のボタンを押しているだけなんだから(そうそう、格闘場面の描写で疑問に思ったのは、キーボードを使っている点だ。レスポンス悪いだろうに)。
 しかし、それらを実際のネットに即したものにしたら、アニメ映画として面白いものになる筈がない。『サマーウォーズ』はネットに慣れきった人々(若者)だけに向けた映画でない。誰が観ても理解できるように、批判したくなるくらいに旧態然とした発想の描写にしてあるのだ。つまり、ネット世界に肉体性を持たせるという方向性の演出に。理屈で考えれば腑に落ちない点だらけだけど、何となく雰囲気で理解できる――させるのが『サマーウォーズ』だ。いってしまえば、『鉄人28号』くらい昔の発想(描写)による物語だ。

 『サマーウォーズ』は、『耳をすませば』と『おもひでぽろぽろ』に似ている。田舎を舞台にしている点が『おもひでぽろぽろ』っぽく、高校生男女のロマンスが『耳をすませば』っぽいと。
 『おもひでぽろぽろ』を特に彷彿とさせるのが最後の場面。そこまでが比較的現実的に作られているのに、最後の最後でいきなりファンタジーな演出になる。私はそこに納得できないけど、ハッピーエンドの締め括りとしては観客の期待に応える感動的な演出だ
 『耳をすませば』を彷彿とさせるのは、子供の恋が堂々と高らかに描かれる点。『耳をすませば』の脚本は宮崎駿さんだ。絵コンテも担当していたから、作品を殆ど牛耳っているようなもので、子供が愛を恥ずかし気もなく高らかに謳い上げる映画になっている。他の人が作ってはあんな小っ恥ずかしい作品にならない。
 『サマーウォーズ』にはそんなジブリっぽさがある。つまり、『時をかける少女』に比べてもっと万人向けに作られている。栄のようなおばあちゃんが観たってわかるように。

 と、基本的にとても素晴らしい作品なんだけど、歴史的傑作と呼ぶための決定的なものが足りない。登場人物が多すぎるがゆえに中心人物が欠いていて物語が薄いのが原因。
 登場人物の中で重要人物の1人である侘助を、主人公・健二の立場を立てるために、悪役っぽく描いているのが駄目。侘助は夏希の初恋相手なんだから、侘助を完璧な初恋相手として描いてこそ、健二と夏希が相思相愛になるハッピーエンドが最高に盛り上がるのだ。時間配分からそんなことは無理なのはわかってるんだけど、そこが惜しいな、と思う。
 また、盛り上がる場面の大半がネット世界「OZ」での展開なのも悪い。ヒロインの夏希が最も活躍するのは、「OZ」での夏希の分身であるアバターだし、「キング・カズマ」の場面もそうだ。そのせいで、何が起きていても緊迫感がない。
 主人公である健二の活躍場面が最後にしかないのも物足りない。これまた人物の多さと時間配分の問題なんだろうし、細田監督があれもこれもと詰め込みたかったからしかたないことなんだろうけど。
 結果的に、観ている間は面白いし、感動もするけど、観終えた後に大切な思い出を持ち帰ることはない。ロマンスも、冒険も、感動も、みーんな細切れで、味わい足りない。展開を――特に「キング・カズマ」関連は丸ごと削っても問題ない――省いたり強調したりすれば、もっともっと面白くなったのに。私は、夏希が健二を守る場面や、その逆や、健二が鼻血よりも言葉と大きな声で小っ恥ずかしい愛を高らかに謳い上げる場面や、栄おばあちゃんの活躍や、世界の本格的な危機を見たかった。しかし、何もかもが仮想的で、緊迫感が欠けていた。

 『サマーウォーズ』は、先鋭性を捨て、典型的な描写と演出を選択することで万人向けの魅力を出すことに成功している。『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』よりも、「日本のアニメの閉塞的状況」を打破することができそうなアニメ映画だ。それどころか、実写でも『サマーウォーズ』ほどにちゃんとしている邦画は数少ない。無駄に長くて、説明だらけで、これみよがしなハッピーエンドすら作れない実写邦画の多さを考えれば、『サマーウォーズ』は本当に良く出来ている。栄が死んだ時の、長い横移動のワンショットで描く家族の描写の素晴らしさを見ても、単なるアニメでなく、「映画」を意識して作られていることがわかる(『サマーウォーズ』には横からのショットがとても多い。これは細田監督の特性なんだろうか?)。
 ネットの描写なんか十年以上経つと色褪せるし、欲張りすぎてギューギュー詰めになっているし、そのくせ足りないものもたくさんあるけど、年間のベストには間違いなく入る傑作だろう。それに、『サマーウォーズ』を観ると、もしかして「大家族」を真正面から描くのは最早アニメしかないのかもしれない、と思えてくる。
 あとは……堂々と小っ恥ずかしい話を照れずにやり抜くことか。宮崎監督に負けないくらいの。最後の場面は、ひと夏の戦争を終えたご褒美ともいえるサービスショットで、宮崎監督でもやらない反則技。あの恥ずかしい演出をもっと全開にできていたら、もっと良かったのに。黒澤明監督の『』をちょっとだけ想い出した。
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テーマ : 映画館で観た映画
ジャンル : 映画

tag : サマーウォーズ

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ばっどていすとさんどいっち

Author:ばっどていすとさんどいっち
テクノ好き。
アンダーワールドのRez大好き。
映画大好き。
ジャッキー・チェンが生涯の英雄。
生涯1位作品は『ミミズバーガー』。
2位が『溶解人間』。
泣き虫で、馬鹿。
itsuka-omoi-dasu-bts@hotmail.co.jp

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