--------

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
2009-07-09

『蟹工船』を観ると搾取されるよ

 SABU監督による『蟹工船』を観た。
 昨年のカナザワ映画祭で、今から50年以上前の、白黒の、山村聡監督による『蟹工船』を観ていたから、私は原作でなく、山村監督版とSABU監督版を比較して観た。原作は未読。
 SABU監督版は、予告編を観ただけで駄作の予感があったんだけど、SABU監督作品を昔は好きだったのと(『弾丸ランナー』と『ポストマン・ブルース』以降は惰性で観てる)、素晴らしい山村監督版をどのようにリメイクしたのか興味あったので、観た。そしたら予感的中。いや、予感を遥かに上回っていた。ギャグの域に近付いているくらい酷くて逆にオススメしたくなる『MWムウ』と全く異なる、普通の、何の変哲もない、真の駄作

 物語は単純。貧乏人どもが蟹缶を作る工船に乗せられ、人権無視な過酷過ぎる労働を強制されるたので、奮起してストライキを起こす話。
 原作が今のいわゆるワーキング・プアに重ねて読まれてベストセラーになっているから、SABU監督版も当然そこを押さえた作りになっている。しかし、山村監督版と異なり、SABU監督版は、変なアレンジが随所にある。
 まず、工船内のセットが変。チャールズ・チャップリン監督の『モダン・タイムス』を酷くしたような感じというか、リドリー・スコット監督の『エイリアン』のノストロモ号の船内のセットの貧乏版というか、テリー・ギリアム監督の劣化版といえるジャン=ピエール・ジュネ監督のさらなる劣化版な感じというか。狭苦っしさが全くなく、地獄のような労働現場には全く見えない。さらに工船内の作業場に、機器類を動かすためのドでかい歯車がむき出しにあって、それを工員が一生懸命ぐるぐる回して機器を動かしている。作業場にそんなのあったら工員が巻き込まれて死んじゃうよ。そんなセットを作ってしまった時点で、SABU監督版は大失敗作が決定したようなもんだ
 次に、今時の若者が楽しめるよう、時代背景を曖昧にしている。架空の時代の話みたいな描き方。時代背景だけでなく、集められた登場人物の背景も殆ど描かれないため、ただ貧乏人どもがこき使われているだけの話になっており、面白さが全くない。登場人物の背景を描かないことで、面白さの半分以上を損なっている。単なる貧乏人だけでなく、蟹工船に乗らなければならない逃亡者とか、色んな背景を持った人物がいた方が面白いのに。時代背景を曖昧にするのなら、『蟹工船』を作る意味は全くない。アレンジするなら、完全に現代版の『蟹工船』を作るべきだ。それなのに、台詞の端々に軍国主義が登場する。すっごい中途半端。脚本が根本的に駄目。
 さらに、ちっとも笑えないギャグが随所にある(毒があって笑えないのでなく、つまらなすぎて笑えない)。みんなで首吊りするとか、貧乏自慢とか、生まれ変わりネタとか。ぜーんぶ、不要。労働が過酷どころか楽しそうだもの。脚本の段階で削除すべきものだけど、とにかく演出が冗長で最悪。カットすると30分は上映時間を短くできる。

 演出がまた駄目。
 脱走を図る工員のアップで始まる一番最初の場面からして、「ああ、これは駄目だな」と思ってしまう。血走った目のアップ、工員が上向くと、上から大量の蟹が落ちて来て、工員の悲鳴で――『蟹工船』の題名が表示。意味がありそうで、何の説明にもなっていないシークエンス。あれじゃあ蟹に襲われるホラー映画の演出だよ。
 全体的に出来の悪いショットばかりな上、編集で無駄に細かくカット割りしているため、逆にテンポが悪い。出だしの30分くらいで駄目だと烙印を押しても問題ないと思う。
 続けて工船内のセットで「駄目だ」と思い、役者たちの演技で「完璧に駄目だ」と確信。監督役の西島秀俊さんの迫力のなさは致命的。怒鳴り声に全く迫力がなく、そもそも声が小さい。主人公を演じる松田龍平さんはさらに最悪。あの時代にさぁ、「やべぇ」なんて台詞はありえないでしょ。松田さんは、最近作でいうと『誰も守ってくれない』にしろ『ハゲタカ』にしろ、みーんな同じ演技だ。いくら何でも『蟹工船』までそれはないだろうと思っていたんだけど、自分流の演技を貫き通していらっしゃる。SABU監督は、「やべぇ」などという人物がいた方が今時の若者にウケると思っているんだろうか?
 特に何だあのロシア船のシークエンスは? 漁に出た工員が遭難し、ロシア船に救助されるんだけど、まるでコントみたいな場面が延々と続く。コントに登場するようなエセっぽい中国人が登場し、意味不明に説教するわ、本当につまらないコントをするわ、最悪だ。あんな下らない説教で目覚め、ストライキを起こすとは……馬鹿すぎる。とにかくロシア船のシークエンスは物っ凄い間延びしていてダラダラしている。コサックダンスにコサックダンスにコサックダンス。本当に最悪。

 音楽がこれまた酷い。意味もなくハイテンションにブレイクビーツな曲を使っていたり。『蟹工船』にポップさは必要か? センスが中途半端な中年オヤジ。

 あまりに面白くなかったから、パンフレットに何が書かれているのか気になって700円も払って買ってみたら、パンフレットの内容も最悪。
 ワーキング・プアの話題で活躍している雨宮処凛さんが解説を書いているんだけど、山村監督版のパンフレットならいざ知らず、SABU監督版に雨宮さんが書いちゃ駄目でしょ。
 明治大学で試写会があったらしく、高橋源一郎さんのトークショーもあったらしいんだけど、高橋さんにしてもSABU監督版を褒めたら駄目でしょ。感性を疑われますよ。しかも笑えることに、明治大生の感想がパンフレットにちらっと載っていて、「この世に平等なんてねぇ!!」とか書いている。悲しくなる。
 この世に平等がないのは当然だ。小学生だって知ってるよ。機会の平等も、結果の平等も完全に保証されているわけではない。それなのにSABU監督は、「境遇を嘆いてもしょうがないんだ!」などと説教する。境遇を嘆かないとやってられないことだってあるんだから、境遇を嘆くのはちっとも悪かない。馬鹿は何をどうしたって馬鹿な人生しか歩めないってのに、何もかもを諦めて愚痴をこぼすのも駄目だってのかい? 考えれば何とかなるなんて、それこそまやかしだ。馬鹿は基本的に何やっても駄目。だって馬鹿なんだもん。それはそこで諦めるしかない。「諦めるな!」だって? 最初から諦めてれば悔しいこともない。それはそれで立派な処世術だ。SABU監督版に登場する工員たちの馬鹿っぷりを見ていれば、ろくな人生を歩めないのは明確なんだから、そんな馬鹿どもは他人にこき使われるだけの人生でいいと思う。ちょっと扇動されたからってみんなで生まれ変わりを望んで集団自殺しようとするんだよ? ガイアナの人民寺院かよ。どうでもいいけど、その集団自殺の場面でペット・ショップ・ボーイズの「Yesterday when i was mad」を想い出した。工船内のセットと似ている部分もあるし。

 SABU監督は、初期の頃はクエンティン・タランティーノ監督のフォロワーという印象が強かった。『ポストマン・ブルース』なんて、まんま『パルプ・フィクション』だ。しかしその後もタランティーノ臭はなかなか抜けず、本家タランティーノ監督は『デス・プルーフ』で遂に本物の傑作を作ってしまったってのに、SABU監督は未だに映画らしい映画を作れていない。いわば映画の模範だけでここまで来たようなもんだ。
 『蟹工船』も、結局は○○フォロワーとしかいいようのない出来になっている。貧乏自慢をする場面での、貧乏な暮らしぶりの描写。生まれ変わって兄弟になる夢想場面での、窓から見える幸せな家庭の描写。そのどれもが思いつきだけのアイデアで構成されていて、「センスの良さ」というものだけを頼りに作られている。それが本当にセンス良いならまだしも、悪いのだからどうにもならない。オリジナル企画で勝手に「センスの良さ」を自慢したいなら問題ないけど、『蟹工船』で「センスの良さ」を自慢するとは……労働者が搾取されている悲惨な物語を観に行ったつもりが、映画に搾取されてムカついてしまった
 SABU監督版に千円以上払うくらいなら、あと千数百円足して山村監督版の『蟹工船』のDVDを買った方が絶対にいい。山村監督版は、原作を知らなくても素晴らしいと思える映画だ。狭くて汚い船内。労働者らしい労働者。鬼のような監督。無駄のない展開に演出。船内から甲板に上がった時の、海が見える開放感溢れるショット。荒波に揉まれ、命がけの漁。おぞましい程の蟹。あれこそが過酷な労働を描いた映画だ。
 SABU監督版は、今年観た映画で最もムカついた映画だった。本気で作る気があったのか疑問に思うくらい、脚本から最悪の出来なんだろうと思える。

 ところで、エンドクレジットを見ていると、スギヨが協賛となっていたけど、いいのかスギヨ? カニカマ作ってるメーカーが『蟹工船』の協賛って、労働者から搾取してカニカマ作ってると思われるよ? 『蟹工船』のお陰でカニカマの売り上げが上がるとも思えないのに、何で協賛……
 
 ついで。
Pet shop boys 「Yesterday when i was mad」

 1分56秒のランプぶ~らぶらなところがSABU監督版『蟹工船』の集団自殺を彷彿とさせる……そんなこと考えるの私だけかもしれないけど。
スポンサーサイト

テーマ : 映画館で観た映画
ジャンル : 映画

tag : 蟹工船

trackback


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

映画『蟹工船』を観た感想

浅川だけが、背景のある人物に見えた。そう、他の登場人物があまり生きていないのだ。でも、無気力な工員がロシア船にちょっと乗っただけで、こんなに変わるものかしら? 変化が突然すぎて違和感があった。

comment

管理者にだけメッセージを送る

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
プロフィール

ばっどていすとさんどいっち

Author:ばっどていすとさんどいっち
テクノ好き。
アンダーワールドのRez大好き。
映画大好き。
ジャッキー・チェンが生涯の英雄。
生涯1位作品は『ミミズバーガー』。
2位が『溶解人間』。
泣き虫で、馬鹿。
itsuka-omoi-dasu-bts@hotmail.co.jp

最近の記事
プルダウンリスト
プルダウンタグリスト
ブログ内検索
ブログ全記事表示

全ての記事を表示する

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。