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2008-10-14

『ぐるりのこと』は思いっきりの愛しい映画

 リリー・フランキーさん主演の『ぐるりのこと』を観た。正直いって、映画としてはとても平凡な出来で、凄くも何ともないんだけど、心に残す価値のある映画だった。

 まず、リリーさんの演技が抜群に良かった。巧かった、ではない。リリーさんに演技力があったのか単なる自然体だったのはわからないけど、映画に溶け込んだ雰囲気が抜群に良かった。浅野忠信さんにかなり近い。同じ、といってもいい。木村多江さんも良かった。不安定で不器用で真面目な女性をとても繊細に演じていた。また、それ以外の全ての役者が、どれもこれも素晴らしかった。みんな、顔で選んだといってもいいくらい、「味のある顔」揃いだった。
 物語は、ちっとも大したことがない。題名通り、主人公たちの周囲(ぐるり)の出来事を描いただけ。ただし、脚本が良い。台詞が良い。聞き惚れてしまうような名台詞がさり気なく、実にさり気なく散りばめられていて、感動を呼ぶ。
 そして、最も素晴らしいと思えるのは、橋口亮輔監督の視点だ。

 リリーさん演じる主人公・カナオは、法廷画家をしている。だから色々な犯罪者を見る。登場する犯罪者は、実際に世間を大騒ぎさせた実在の犯罪者ばかりだ。オウム真理教、幼女連続誘拐殺人事件の宮崎勤、池田小学校殺傷事件の宅間守などなど。映画では仮名で登場するが、事件を知っている人ならすぐにわかるだろう。誰からも死刑を望まれるような極悪人揃い。
 しかし、『ぐるりのこと』は、そんな極悪人を極悪人として描かない。「生きることが下手な、ごく普通の人」として描く。私はそこにとても感動した。
 木村さん演じるカナオの妻・翔子は、子供を亡くし、精神的にどん底へと堕ちる。翔子は、何でもかんでも計画を立て、その通りにしなきゃ気が済まない。だから、「幸せな家族」を計画立てていた翔子は、子供を亡くし、心がボロボロになって、カナオに謝ってしまう。ごめんなさい。ちゃんと計画通りにできなくて。何で私と一緒にいるの?
 カナオは、そんな翔子を慰める。何でも決め決めにしすぎだよ。適当でいいじゃないか。好きだから……一緒にいたいと思っているよ。
 翔子が少しずつ立ち直ろうと、お茶会に通っていた寺の庵主様から、寺の天井画を描いてくれとお願いされる。その時に庵主様がいう、「絵を描くのも技術だけど、生きるのも技術」という言葉が感動的だ。
 「生きるのも技術」、それはその通りだ。その言葉は、『ぐるりのこと』を総括していると思う。

 実際にイラストレーターであるリリーさんだから、というわけじゃないけど、リリーさんは法廷画家が似合っていた。法廷画家は、感情で描かない。善悪を決めない。ただ淡々と、被告人を観察する。指先の動き、履いている靴、髪型、表情。さっと見て、さっと描き、さっとTV局へ渡す。プロの仕事だ。単なる画家やイラストレーターでなく、法廷画家だったから、『ぐるりのこと』は良かったのだと思う。
 法廷で裁かれた多くの犯罪者は、最初から極悪人だったのだろうか? 生まれ付きの極悪人だったかもしれない。でも、幸せを望まなかったんだろうか? たぶん、望んだ筈だ。それがどんな形であれ、幸せを夢見て生きて、途中で挫折したんだ。自分の描いた幸せと随分ずれた現実になってしまい、犯行を犯したんだろう。
 生きるのも技術。確かにそうだ。だから、生きることには上手下手がある。上手な人は幸せに生きて、下手な人は辛く生きる。犯罪者だって、生きるのが下手なだけなんだ――そんな橋口監督の視点に、物凄く感動してしまう。大抵の映画は、犯罪者は犯罪者としてしか描かない。

 私にとって映画とは、現実に味わえないものを味わわせてくれるものだ。『ぐるりのこと』にはスペクタクルはないし、特撮も血まみれもアクションも裸(これは少しある)もない。しかし、優しい視点がある。それを感じるだけでも現実とは違う感情を抱くことができる。だから、立派に映画だ。現実では味わえない感情、それを味わえることが素晴らしい。
 『ぐるりのこと』は、カナオと翔子の十年間を描いている。バブル崩壊から、アメリカの9.11テロまでの、日本の十年間。日本のおかしさが現れ出した十年間。徐々におかしくなってきたのか、元々おかしかったのが噴出したのか、とにかく「おかしい」ことが判明した十年間。その間に起きた様々な出来事は、あと十年もすると風化して、法廷に登場する事件を想起できない人が増えてくるだろう。そーゆー意味では、何十年と色褪せない映画だとはいえない。しかし。
 映画とは、見つめることでもある。それならば、翔子とカナオが互いを見つめ直し、立ち直った十年間は、全世界の「見つめる」であってもいいと思う。

 普通で凡庸な映画で、効果的で魅力的なショットもない映画だけど、『ぐるりのこと』には、「見つめる」ということを再認識させるだけの威力はあると思う。偏見や差別なく、普通に見つめることの面白さと、大切さ。今現在、日々世間を騒がせている事件は溢れていて、飽きてくるくらいだ。そんな時代だからこそ、『ぐるりのこと』は価値を持つ。喧騒から離れて、見つめてみるのは大切だよ、と。
 単なる夫婦の物語だけど、橋口監督の思いっきりの想いがこもった、忘れたくないと思わせる愛しい映画だ。
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テーマ : 映画館で観た映画
ジャンル : 映画

tag : ぐるりのこと

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ばっどていすとさんどいっち

Author:ばっどていすとさんどいっち
テクノ好き。
アンダーワールドのRez大好き。
映画大好き。
ジャッキー・チェンが生涯の英雄。
生涯1位作品は『ミミズバーガー』。
2位が『溶解人間』。
泣き虫で、馬鹿。
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