--------

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
2008-07-21

『ノーカントリー』は『宇宙戦争』だよ

 コーエン兄弟の『ノーカントリー』を観た。正直、よくわからない映画になっていた。
 7割は面白い。「面白いように作ってある」から。残り3割がわからない。「わからないように作ってある」から。だから困った。これはあれだ、皆々様方の思った通りでございます。そんな映画だ。

 卑怯といえば、卑怯。原作通りっつっても、原作をそのまま映画にしなくてもいいと思うのだが。よくこれでアカデミー脚色賞を受賞したな。作品の格、脚色の仕方、演技は……引き分けだけど、基本的に『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』の方が優れているのに……アカデミー賞も所詮は出来レースか。
 原作者であるコーマック・マッカーシーさんは、『すべての美しい馬』で有名だ。題名通り、美しく、詩的で、本当に素晴らしい小説。登場人物の内面描写を極力廃し、行動のみで示す、ハードボイルドな世界。そして、『ノーカントリー』の原作である『血と暴力の国』も同様に素晴らしい。
 最初は、『ノーカントリー』が『すべての美しい馬』と同じ作家によるものとは知らなかった。そもそも、『すべての美しい馬』は、映画版が余りにも酷い出来で、そのせいで原作を読まない人が多いと思う。是非、読むべきだ。同様に、『ノーカントリー』の原作である『血と暴力の国』も読むべきだ。はっきりいって、『ノーカントリー』と比べようもないくらい、素晴らしい。
 ついでに最近発売された『ザ・ロード』も素晴らしい。SFとしても、また相変わらずの暴力哲学小説としても。ピューリッツァー賞を獲っただけはある。

 『ノーカントリー』は、テーマは結構、深遠。でも、そんなこと以前に、画面の面白さが優先。もちろん、ハビエル・バルデムさん演じる殺し屋シガーのことだ。シガーの描写は、原作とは全く異なるというか、映画向けにブローアップされている。
 「七・三分け」どころか「九・一分け」のおかっぱという強烈なヘアースタイルに、無表情。そんなシガーが、とにかく会う人会う人殺しまくる。買い物ついでに殺し、道を尋ねるついでに殺し、わけもなく殺す。殺し屋というよりは、正に「ナチュラル・ボーン・キラー」。しかも、武器が空気ボンベ。ホースの先を対象者の額に当て、ぶしゅっと圧縮空気をエアガンみたいに発射して殺す。硬貨大の穴が頭に貫通する。映画史上に絶対残る強烈なキャラだろう。強烈すぎて夢見そうだもん。
 
 『ノーカントリー』は基本的には西部劇なんだけど、コーエン兄弟の『ブラッド・シンプル』のように光と影を活かした画作り、物語の構成は『ファーゴ』みたいに悪と正義の語り部を外部に置いた、ギャグとシリアスが混在している、コーエン兄弟の最も得意とするタイプの映画だ。
 物語は単純で、マフィアの金を盗んだ男、その金を取り戻すように依頼された殺し屋、その揉め事を収めようとする保安官、その三者で構成される。金を盗って逃げる男と追いかける殺し屋の戦いは、物凄く面白い。クライムサスペンスとしては一級の出来。ただし、そこだけで構成されていたら、の話。保安官が登場すると、わかり難くなるのだ。
 トミー・リー・ジョーンズさん演じる保安官は、今の世を嘆き、常に哲学的なことばかり話す。お陰で物語は、複雑さは増さないのに、難解さが増す。それは原作では問題ない部分なんだけど、映画では、アクション映画に哲学を導入したようなもので、観客を混乱させるだけだ。そーゆーとこがコーエン兄弟の駄目なとこなんだよな。普通にクライムサスペンスを作りゃいいのに、「原作がそーなってたから」といって、原作を踏襲しちゃう。それは「原作を尊重している」というよりは、哲学的な雰囲気を持たせることによって「映画に箔を付ける」のが目的だとしか思えない。映画そのものには、何の貢献もしていない。本当、よくこれでアカデミー賞が貰えたな。
 アクション部分は、本当に一級品なんだけど、ジョーンズさんが現れると、コーヒーのCMみたいにぼやいてばかりで……『ファーゴ』のフランシス・マグドーマンドさん演じる警察夫婦の会話を駄目にしたようにしか思えない。

 さて、世の中には、どうにもならないことがある。病気、災害、歳、予期せぬ事故。常に「死」と「暴力」が付いて回る。それはいかなる時代にも変わらずあるし、時代と共に変化するものもある。『ノーカントリー』(『血と暴力の国』も)の原題は、『No Country for Old Men』なので、どちらかというと、後者の意味合いが強い。邦題が『ノーカントリー』だからそれがわかり辛い。保安官がしきりにぼやく内容は、つまりは「年寄りには住み難い国になった」で、それがそのまま「for Old Men」にきているんだから、邦題を「ノーカントリー」にするなら、「for Old Men」は端折っちゃいけなかったと思う。原作そのままに「血と暴力の国」で良かったのに。
 「血と暴力」だけはあって、『ノーカントリー』は「死」をテーマにしている。誰しも避けられない「死」という存在そのものを、殺し屋シガーが体現している。シガーの行いを、例えば全て交通事故か何かと置き換えれば、『ノーカントリー』は少しわかり易くなる。
 例えば、最初の方で、コイントスの結果で生き延びる店主がいる。シガーは、「それは幸運のコインだから大切にしろ」という。確かに、命拾いできたわけだから、幸運のコインだ。同様のコイントスで、逆に殺される主人公の妻もいるので、シガーの存在は正に天災といってもいい。いきなり現れて、厄災をばら撒いていく。どうにもならない、思うにならない、そんな存在が、シガーだ。これは、スピルバーグ監督の『宇宙戦争』みたいでもある。ジェイソンでもいいし、フレディでもいいし、ブギーマンでもいい。殺人鬼映画も、考えれば災害みたいなもんだ。
 コーエン兄弟はインテリのくせして社会的な風刺や影響を映画に持ち込まないから、単純に哲学に作りたかっただけなんだろうけど、どうせならそこに『スクリーム』以上に形骸化されたホラーの哲学的思考を入れてほしかった。それができていたら、物凄い超傑作になっただろうに。

 結局は、スタイルが先行し過ぎて失敗したというか、バルデムさんのシガーが余りに強烈過ぎて映画全体をバルデムさんに喰われそうだったから、スタイル先行型の監督としてそうはさせなかったというか……できればバルデムさんの存在感に全てを委ねても良かったと思うんだけど。保安官の台詞は大幅に削って。そっちの方が、不気味だし、「血と暴力の国」だし、「住み難い世の中」になったと思う。
 『ファーゴ』や『ブラッド・シンプル』はもっと素直に作ってたのになぁ。
スポンサーサイト

テーマ : 映画感想
ジャンル : 映画

tag : ノーカントリー

comment

管理者にだけメッセージを送る

プロフィール

ばっどていすとさんどいっち

Author:ばっどていすとさんどいっち
テクノ好き。
アンダーワールドのRez大好き。
映画大好き。
ジャッキー・チェンが生涯の英雄。
生涯1位作品は『ミミズバーガー』。
2位が『溶解人間』。
泣き虫で、馬鹿。
itsuka-omoi-dasu-bts@hotmail.co.jp

最近の記事
プルダウンリスト
プルダウンタグリスト
ブログ内検索
ブログ全記事表示

全ての記事を表示する

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。