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2007-10-06

シッコ その2

 前回の続き。

 マイケル・ムーア監督は、「アメリカ以外はどうなんだ?」とカナダ、イギリス、フランスへ取材に行く。そして驚く。何と皆、医療費がタダなのだ。3割負担とかじゃない。そんな馬鹿な! でも、医者も患者も失笑混じりにいう。
  「医療費を払う? 何のために?」
 ならば、医療費はタダでも、病院は経営上どっかに金の出入り口がある筈だ! と、イギリスの病院でそれを見つける。それは。
  「会計」
 あった! ここだ! ここが金の出入り口だ! しかし、そこの係員はいう。
  「いや、ここはお金を頂く場所じゃないですよ」
 じゃあ、何で会計なの? 会計つったら、金を払う場所じゃないか。
  「いいえ。ここは、患者からお金を貰う場所じゃなく、通院にかかる交通費を出せない低所得の患者に、交通費を払い戻す場所です」
 ムーア監督の完敗。

 アメリカ人にとっては嘘としか思えない国民保険は、先進諸国にとっては当たり前の制度でしかない。何でアメリカ人は黙って政府のやり方に従ってんだ?
 
 今年の6月末くらいに、イギリスの爆弾テロがあった。犯人は、貧しく、人々から差別の限りを受け、復讐に燃える、社会的な弱者――ではなかった。ムーア監督が褒め称えるイギリスの国民保険サービスで働くイスラム系の医者だった。この事実が判明した時のアメリカの報道は、こんなだった。
  「国民保険制度がテロ思想を増長させた」
 日本人からすりゃ、冗談もいいとこだ。どんなことがあれば国民保険がテロと結び付くのか。TVのワイドショーなんかで、「テロは、国民保険のせいだ!」といってるコメンテーターがいたら、即刻そいつはクビだろ。ところが、アメリカ人はそれを信じちゃった。全員が全員じゃないけど、かなり信じた。「世界の爆笑ニュース」てタイトルの2時間特番で流れるようなそんな馬鹿話を、アメリカは何十年間も繰り返してきたのだ。医療業界と利権まみれの政治家どもの手によって。
 2日前のニュースだけど、アメリカはまた1つの法案を退けた。子供向け医療保険助成制度拡大法案を。
 ブッシュ大統領は、法案自体は支持するが、今のままの法案では、低所得者を助けるための法案なのに、高所得者まで受給対象に入ってしまうので、国の財源を無駄に圧迫するから駄目だ、と。イラク戦争にかかるアホみたいにドデカイ出費、民間の保険会社の、政治家どもにやってる無駄な献金、官僚主義的で非効率的な運営のために発生する無駄なコスト、それらを削ればどれだけの金が浮くだろう。物凄く少なく見積もっても、軽く数千億ドルは超える。
 コストは、薬も含まれる。製薬会社が価格を自由設定できることを政府が容認しているため、低所得者は病院に行くどころか、薬を買うのも困難なのだ。無駄に高い薬代は、病院や薬局のコストにもなっている。それを削れば数百億ドルは浮く。
 法案を通さない努力より、他に努力すべき点はある筈だ。なのに、それをしない。そして、しないことをアメリカ人は容認してしまっている。昔、高齢者向け医療保険制度の法案を通そうとした時も、社会主義を招くと拒まれた。国民保険の導入は、増税と医療の質の低下を招く、と国民に信じ込ませている。ムーア監督は、『シッコ』の最後に、観客に行動することを促す。目覚めろ、と。

 9.11テロの時、崩壊する貿易センタービルで救助活動をした人々がいる。彼らはアメリカ中から英雄と扱われた。しかし華やかに称えられるその影で、灰塵を大量に吸い込んで重い病気を患った人々、大怪我を負った人々、死んでしまった人々がいた。だから、彼らのために基金が設立された。が、実際に基金の金が素直に支払われることはなかった。国の英雄と称えておきながら、実態は何だ? クリント・イーストウッド監督の『父親たちの星条旗』を思い出す。

 『シッコ』の最後、ムーア監督は、貿易センタービルで救助活動をしたのに政府から顧みられなかった人々、他にも取材した医療保険制度で酷い目に遭った何人かを連れてキューバへ行く。そこでは皆、手厚く治療してもらえた。アメリカが危険国家と罵っているキューバで、アメリカ以上に素晴らしい治療を。なぜキューバにできてアメリカにできないのか、とムーア監督は問う。

 世の中は常に人の足を引っ張る奴がいる。例えばムーア監督の映画には、いつも決まってこんな批判が繰り広げられる。「嘘ばかり」、「過剰演出だ」、「主観的過ぎる」、「公平性がない」と。いや、実はその通りなんですわ。ドキュメンタリーとしてかなりアンフェアな作品を作るのがマイケル・ムーアという人。でも、ちゃんと観ればその批判は事実であっても正しくないことがわかる。
 ムーア監督は、社会を映画で変えようとしている。冷静に、平等に、正確に描いていて社会は変えられるだろうか。変える必要を感じさせる相手は、もっと酷いことを繰り広げている。なりふり構っていられない。それが、「我々アメリカ人は何をしているんだ?」という問いかけになっている。ドキュメンタリー映画としては落第だけど、姿勢は正しいと思う。

 足を引っ張る奴といえば、デーブ・スペクター。こいつ、なぜか『シッコ』のパンフレットにコラムを載せている。相変わらずアホ丸出しな内容だ。
 「ムーアは公平じゃない。アメリカの医療技術は世界一で、世界中の金持ちがアメリカで手術を受けたいと思っている。それこそビンラディンだって」
 本当、アホだな。そもそもアメリカの医療技術が世界一だから医療費がぐんぐん高くなり、金持ち以外は治療費を払えないんじゃないか。金持ちが増え、金持ちを満足させるために医療技術が向上し、それに伴って医療機器や薬が高品質化し、医療費は高くなる。で、金持ちじゃない人々は置いてかれる。皮肉なことに、医療技術が向上すればするほど、医療に辿り着けず命を危険に晒す人々が増えるのだ。それに、『シッコ』で問題にしているのは医療保険制度であって、医師のレベルではない。ツッコミ箇所がないからって、トンチンカンなツッコミしてどうするよ、デーブさん。

 さらに足を引っ張るのに、アンチムーアで、くたばれムーアなサイトを開いている人がいる(勿論、アメリカ人)。その人は奥さんが病気になり、医療保険が降りず、看病のためにくたばれムーアなサイトを閉鎖せざるをえなくなる。しかしムーア監督は、「健康も、表現の自由も両方実現できなきゃいけないんだ」と、匿名で百数十万円の小切手をその人に贈る(結果的にそれを映画で公表しているから、匿名でも何でもないけど)。その結果、その人が取る態度が面白い。
 
 私はマイケル・ムーア監督を応援する。映画で世の中が変わるなら、そりゃ見てみたい。とりあえず、大統領選挙ではかなり医療保険制度が争点になるみたいだから、外国のことだけど、楽しみ。『華氏911』の時は惨敗したけど、さて、今度はどうなる?
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プロフィール

Author:ばっどていすとさんどいっち
テクノ好き。
アンダーワールドのRez大好き。
映画大好き。
ジャッキー・チェンが生涯の英雄。
生涯1位作品は『ミミズバーガー』。
2位が『溶解人間』。
泣き虫で、馬鹿。
itsuka-omoi-dasu-bts@hotmail.co.jp

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