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2012-03-07

『1911』は、歴史のひだに埋もれさせたい作品

1911
 人類を物凄く大雑把に分類すると、歴史を作る者と歴史のひだに埋もれる者の二者に分けられると思います。前者は、教科書に大きく太い文字で名前が記載され、語り継がれます。後者は、文字と文字、言葉と言葉の狭間にのみ存在し、「その他大勢」と記載されることすらなく、自分語りをするのみ。
 敬愛する偉大なるジャッキー・チェン様は、後者に敬愛を捧げる作品を作ろうと考えました。

 「歴史もの」は、歴史を作る者と歴史のひだに埋もれる者のどちらに視座を置くかで全く面白さが異なります。ど真ん中の英雄譚にして惚れ惚れさせるか、群集劇で面白い状況を楽しむか。『1911』は両方で失敗しています。
 『1911』には明確な主人公が存在しません。歴史(舞台)の主役は、孫文のみでなく、民衆1人1人であることを描いているからです。たくさんの尊い犠牲により成し得た革命であった、と。孫文は脇役に近い存在です。チェン様演じる黄興も主役ではありません。しかしそこはチェン様、アジアのスーパー・スターですから存在感が強く、何だかんだで最も目立っています。お陰で「民衆による民衆のための革命」の部分が薄れています。どうせ目立つのなら孫文を演じた方が良かったと思いますが、慎み深いチェン様ですから、孫文を演じる自画自賛を回避したのでしょう。それでも、苛烈な現場でみんなを引導するのは黄興ですので、目立ちます。それが大失敗。
 チェン様が演じているとはいえ、黄興はたった1人で敵を次々となぎ倒すアクションヒーローではありません。そのような役柄をチェン様が演じるのは資源の無駄使いです。チェン様には、やはりヒーローを演じてもらいたい。それは全人類の願いでしょう。チェン様もそれを理解しているから、短いながらもチェン様らしい格闘場面を挿入しています。しかし、その数分しかない格闘場面が2時間を超える『1911』を完全に貶めることになっています。
 結局『1911』は視座を定めぬまま作られており、英雄のカッコ良さを楽しむことも、歴史の重要な一場面に立ち会うことができる高揚感もありません。チェン様は徹頭徹尾、目立ってはいけなかったのです。歴史を眺めるだけの者――その視点を維持することが『1911』には欠けています。「主役は民衆1人1人である」を描こうとし、チェン様が黄興を演じることが決まった時点で『1911』は失敗確定だったのです。また、物語を動かすために「キャラ立ち」している人物が必要であると考えたのか、敵側の袁世凱が最も魅力的に描かれているのも困ったものです。
 
 たま~に、本気でガッカリする作品に出会うことがあります。予告編だけで自分向きじゃないと確信できるものは最初から観ないので、本気でガッカリするのは、期待満々でガッカリさせられた場合です。『1911』は正に本気でガッカリした作品でした。
 『1911』には最初から不安がありました。アクションを封じた真面目な「歴史もの」だからです。でも、チェン様の公開作品は全て観なければならない私ですから、不安を抑えて観ました。そうしたら、これが見事に失敗作。開始数分でわかる失敗作。敬愛するチェン様の作品といえど、いくら何でも酷すぎる出来。
 物語は正直どうでもいいです。本当に駄目なのは、画面。とにかく画面が酷い。
 そもそもムカつくのは配給会社が容易したと思しき解説映像。親切なことに本編開始前に歴史の説明をしてくれるのですが、NHKの歴史番組かっつー安いチープなCGで作られており、それが大画面に広がっているのですから、始まった瞬間「あ、もう観るの止めて帰ろう」と思わされます。開始から1分も経ってないどころか、本編が始まってすらいないのに帰りたくなります。一瞬、既に本編が始まっているのかと思い唖然としましたが、本編が始まってないことに気付き、ホッとしたのも束の間、結局すぐにガッカリ。1本の作品で2度ガッカリ。珍しい。
 細かくカットを重ねるタイプの作品で、テンポ良い娯楽作品を狙っているのでしょうが、私の印象では、チェン様の作品は1つのショットがもっと長い方が良いと思っています。チェン様の魅力を伝えるのに「テンポの良いカット」は不要。
 なぜ物語以上に画面が面白くないのかというと、展開の要素に理由がないからです。たとえば、黄興は戦闘にて負傷し、指を失うのですが、それが物語に何も影響しません。いつもながらの格闘場面を入れているくらいですから。格闘場面を強引にでも挿入するのなら、その前提が必要です。つまり、格闘場面を入れるための何かを起こしておかなければなりません。それがないから、せっかくの格闘場面は本気でどうでも良い場面となってしまっています。つまり、「何かがこうなったから、こうなる」というように脚本が作られていません。それでどうなるかというと、展開が脈絡ないものになり、画面そのものに力がなくなります。チェン様が主演でありながら、“動きのない”作品になってしまったのです。
 他にも、照明とか撮影とか、CG、あと音楽も、TV特番ドラマと思わしき安~い感じ。娯楽作品を狙った結果なのでしょうが……『1911』は、チェン様の念願の企画だったとか。総監督まで務めています。出演100作目という記念的作品でもあります。それであの出来とは……とにかく、豪華なTVドラマでしかありません。

 チェン様も年齢を重ね、今までとは違う重厚な役や作品に出てみたいのかもしれませんが、適材適所ではなかったと思います。ファンサービスとはいえ、物凄くどうでもいい場面で物凄くどうでもいい「いつもながらのアクション」を挿入する詰めの甘さ。いや、ファンサービスなのはわかります。ファンですから私も「やっぱアクションあるんじゃん」と安心してしまったのも事実。しかしそれならば最初からドニー・イェンさん主演の『孫文の義士団』のようにしても良かったでしょう。それに於ける孫文はもっと脇役です。『1911』と同様の視座を持ちながら、明確に娯楽作品としてアクションを全面に押し出し、『1911』よりは面白いものになっています(全く面白くないけど)。
 『ラスト・ソルジャー』は素晴らしい作品だっただけに、根本的に作り方を間違えたとしかいいようがありません。賞味期限切れ過ぎて痛んでいる作品でした。
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テーマ : 映画館で観た映画
ジャンル : 映画

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プロフィール

ばっどていすとさんどいっち

Author:ばっどていすとさんどいっち
テクノ好き。
アンダーワールドのRez大好き。
映画大好き。
ジャッキー・チェンが生涯の英雄。
生涯1位作品は『ミミズバーガー』。
2位が『溶解人間』。
泣き虫で、馬鹿。
itsuka-omoi-dasu-bts@hotmail.co.jp

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