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2011-10-24

『君を想って海をゆく』は、感動を避けた無常の感動作

kimiomo
 『君を想って海をゆく』を観ました。
 フランスを舞台に、クルド難民の困難を描いた作品です。紛争中のイラクから3ヶ月間も歩いてフランスまで来た少年ビラルは、イギリスへ密航を試みるが、警察に見つかり、失敗。ならば、フランスのカレーからドーバー海峡を泳いでイギリスへ行こうと決心。季節は冬。波はあるし、流れは速いし、水温は10℃以下。監視船だって通る。泳ぐ距離は、直線距離なら34kmだけど、この状況下ではもっと長くなる。プロの水泳選手だって10時間は泳ぎ続けなければならない。大変だ。それに何より、ビラルは泳げない。果たして無事にイギリスへ辿り着けるのか?

 物語は、密航を試みるところから始まります。その描写は、初めて見るものでした。
 ビラルら密航者は、幌で覆われた荷台を持つ輸送トラックに忍び込み、運転手に気付かれずにこっそり目的地まで運ばれようとします。幌の屋根に登り、ナイフで幌を切り裂き、中に入る。その際に重要となる装備が、ビニール袋。コンビニなんかで貰える、中サイズのものです。荷台に忍び込んだ密航者は、誰もがそれを大事に抱えている。密航仲間がビラルに説明します。息は幌の外に吐け。でなければ、頭から袋を被り、決して吐く息を漏らすな。
 密航者たちは、検問所に着くまで貨物の上に乗り、切り裂いた幌の隙間から、外に息を吐きます。検問所に着くと、切り裂いた幌を粘着テープで補修し、ビニール袋を被ります。吐く息を漏らさないよう、袋の口を、自分の首を絞めるようにして握る。荷台の外では、警察犬を連れた警察がたくさんいます。警察は、荷台に密航者がいないか検査します。しかし、いちいち幌を開けたりしません。細長い棒状の二酸化炭素検知器を幌の隙間から差し込むだけ。だから、吐く息を漏らすな、とビラルは説明を受けたのです。ビラルも急いでビニール袋を被りますが、パニックを起こし、ビニール袋を取ってしまい、あえなく検知されてしまいます。
 二酸化炭素検知器で荷台に潜む密航者を見つけようとし、密航者は対策としてビニール袋を頭から被って息を漏らさないようにする。そんな駆け引きが行われていることを初めて知りました。荷台をちゃんと確認した方が確実に見つけられるのに、それをしないということは、効率を優先しなければならないくらい密航者がいる、ということです。そこら辺の事情が全くわかっていない観客にも一発で社会状況がわかる重要なシークエンスでした。
 逮捕されたビラルは、祖国が混乱状態であるため、送還されずに保釈されます。ビニール袋が被れないから、密航に陸路は駄目。お金もない。そこで、海を泳いで行こう、と思うわけです。

 主人公はもう1人います。水泳コーチのシモン。妻マリオンと離婚調停中のしょぼくれたオッサンですが、元メダリストという輝かしい歴史を持っています。何となく生きる気力のなさそうなシモンは、ある日、無様な泳ぎをしている青年からコーチの依頼を受けます。それがビラル。
 マリオンは、難民救済のボランティアをしています。だからシモンは、俺ってボランティア~んな良い漢なんだぜ、ということをマリオンに見せ付けるためだけにビラルを自宅に泊めます。その際、ビラルの人柄を知ります。サッカーが得意で、走るのが速い。夢はマンチェスター・ユナイテッドに入ること。ロンドンに恋人ミナがいて、逢いに行くこと。
 マリオンに良いところを見せようと思ってビラルを泊めたシモンですが、逆にマリオンからたしなめられます。政府は取り締まりを強化している。難民を助けただけで逮捕される。警察が私のところにも事情聴取に来た。難民に係わるのはもう止めて。
 シモンはビラルにいいます。海峡を泳いで渡るのは無理だ、と。しかし、ビラルは泳ぎの練習を止めません。ミナに逢うために、どんな困難も乗り越えるつもりです。

 全体的に淡々としていて、説明が少ない作品です。登場人物の設定は小出しに語られますが、多くは語られません。金メダリストだったシモンがなぜ今しょぼくれているのか、シモン夫婦がなぜ別れることになったのか、ビラルの実家や家族はどうなっているのか、ミナの家族とビラルの関係はどうなっているのか、等々は語られません。しかし、重要な要素はしっかりと、的確に説明しています。
 1つ目は、ビニール袋。シモンの自宅に泊めてもらえた際、ビラルは風呂場でビニール袋を被る練習をしています。シモンにその現場を発見され、ビラルは、過去に受けた悲惨な体験から、恐怖で袋を被れないことを語ります。ビニール袋は、トラックによる密航では必要な道具として、シモン宅ではビラルの悲惨な過去として、そして後半の場面で素晴らしく効果的に使われます。
 2つ目は、指輪。マリオンは、結婚指輪を紛失した、と悔やんでいます。しかし、ビラルを自宅に泊めようと寝る部屋を整えている際、ソファの隙間に指輪が挟まっているのをシモンは発見します。その指輪を、ビラルに渡します。これをミナに渡せ、と。この指輪も最後に別の使われ方をされます。
 3つ目は、互いを想っているのに結ばれない関係。シモン夫婦は互いにまだ思慕の念があるのに、なぜか別れることを選んでいます。シモンはしかし、まだ強く未練があるようで、それゆえに周囲の反対を無視してまでビラルを応援しようとします。自分は目前の妻を手放そうとしているのに、ビラルは命を懸けて恋人に逢おうとしている。しかしそのミナにも事情があり、ロンドンに移住できたはいいけど、見合い結婚を父親から迫られており、もうそれは回避できそうにない。だから、ビラルには逢いに来てほしくない、と思っているのです。
 そして、壁。

 本作を貫いているのは、大きな障壁です。ビラルにとっての海峡は、物理的な壁として物語を盛り上げます。しかし、難民問題を扱っている本作の「壁」は、様々な場所に存在する無理解や無関心ではないでしょうか。誰かを理解しようとして、理解できない。または理解してもらえない。関心すら抱いてもらえない。そんな壁。
 シモンにもマリオンにもビラルにもミナにも、逃れようのない壁があり、どこまでもその壁が続いているようです。本作で唯一、ビラルだけがその壁に果敢に挑み続けますが、その壁は、海ではなく、世の中の無理解や無関心であるため、ハッピーエンドにはなりません。なってはならないのです。

 お涙頂戴に堕することなく、伝えようとしていることを伝えている良い作品だと思います。全ての「説明」を映画的躍動によって語り、台詞で長々と心情を吐露することで悲哀を誘う愚は避けられています。登場人物の誰もがどんな人なのか明確に「説明」されません。何となく、この人はこんな人なんだろうなぁ、と思わされる程度。その劇的でない感じが素晴らしい。
 2時間以内に上映時間が収まっているのも良い。政治的でややこしい話ですから、もっとメロドラマにすると軽く2時間半にはなります。上映時間を見ても、ばっさりと下手な感動を避けているのがわかります。
 痛いような、感動するような、微妙な按配の作品です。少し奇麗にまとめ過ぎている感もあり、その破綻のないところが欠点かもしれません。それでも必見、そして記憶に残る作品だと思います。

 たーだーし、邦題はメロドラマのようで、駄目。原題は、『WELCOME』。シモンがビラルを泊めたことを隣人が警察に通報するのですが、その隣人の玄関前には、「WELCOME」と描かれたマットレスが敷いてあります。そこからずっと物語が進み、最後の場面――ビラルの夢だったマンチェスター・ユナイテッドの試合がTVから流れ、歓声に包まれる中、無常を感じるシモンの姿に暗転。初めて題名が現れます、「WELCOME」と。つまり原題は、全く否定的な「WELCOME」を意味しているわけです。邦題は、その意思を台無しにしています。少しでも多くの人々に観てもらいたいから、メロドラマっぽい邦題を考えたのでしょう。でしょうけど、作品の意思を伝える手段の1つとして題名があるのですから、安易な方法に走るべきではなかったと思います。
 作品自体は良かっただけに、そこが惜しいな、と思いました。
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テーマ : 映画館で観た映画
ジャンル : 映画

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プロフィール

ばっどていすとさんどいっち

Author:ばっどていすとさんどいっち
テクノ好き。
アンダーワールドのRez大好き。
映画大好き。
ジャッキー・チェンが生涯の英雄。
生涯1位作品は『ミミズバーガー』。
2位が『溶解人間』。
泣き虫で、馬鹿。
itsuka-omoi-dasu-bts@hotmail.co.jp

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